
政府は2026年10月16日、警察官職務執行法(警職法)の改正案を閣議決定した[1][2]。複数の犯人による重大な犯罪で次の被害が迫っている場合に、裁判官の許可を得て、犯人が連絡に使う端末に接続し、狙われている人の情報を取得できるようにする。狙われた人に被害を防ぐ措置をとることも、警察官に義務づける[3]。
警職法改正案の柱
警察庁が公表した要綱と条文によると、改正案の柱は2つある[3][4]。
1つ目は、被害が迫っている人への措置だ。人の生命・身体に危険を及ぼしたり、財産に重大な損害を与えたりするおそれのある犯罪を「重大犯罪」と定める。重大犯罪が行われるか実行に着手されたと認め、さらに被害が広がるか、同じ犯人による次の被害が出ると判断できる場合で、狙われた人が特定されているときは、警察官は直ちにその人に被害を防ぐ方法を伝えるなどの措置をとらなければならない[4]。
2つ目は、新設する「被害防止電子計算機調査」だ。警察庁長官が、必要な知識と能力を持つ警察官を「被害防止電子計算機調査官」に指名する。調査官は、犯人同士の連絡や標的への連絡に使われたと認める理由のある端末に、通信回線を通じて接続し、狙われた人の氏名や住所、犯行の日時など、被害を防ぐのに必要な情報を写し取ることができる[4]。
3つの要件と裁判官の許可
端末への接続は、次の3つの要件をすべて満たす場合に限られる[4]。
- 重大犯罪が数人の共謀で行われたと認められること
- 被害の拡大や発生を防ぐため緊急の必要があること
- ほかの方法では必要な情報を速やかに集めることが著しく難しいこと
実施の前には、地方裁判所か簡易裁判所の裁判官の許可が要る。申請では、接続が必要な理由、対象の端末、写し取るデータの範囲、具体的な手順を示し、裁判官は対象と有効期間を記した許可状を出す[4]。
行き過ぎを防ぐ仕組みも盛り込んだ。許可の範囲外のデータに触れた場合はほかの警察官に渡してはならず、調査が終われば直ちに消去する。
調査後は原則として端末の使用者に、調査の日付や罪名などを通知する。調査官のとった措置は公安委員会に報告し、公安委員会が適切だったかを確認する[3][4]。施行は公布から6か月以内としている[3]。
サイバー防御に続く「接続」の権限
警職法には、2025年の法改正で、重要なコンピューターへのサイバー攻撃に対処する「サイバー危害防止措置執行官」の規定(第6条の2)が設けられた[5]。今回の改正案はこれとは別に、サイバー攻撃ではない一般の重大犯罪について、被害の予防を目的に犯人側の端末へ接続する権限を設けるものだ。
政府は改正の理由について、最近の犯罪の実情を踏まえたものだと説明している[4]。条文が「数人の共謀」や「犯人間の相互連絡」を要件にしていることからみて、実行役がオンラインで指示を受け、別の人が標的を割り振るような分業型の犯罪が念頭にあるとみられる。こうした事件では、次に狙われる家がどこかを先回りして把握できるかどうかが、被害を防げるかの分かれ目になる。
「重大な損害」の範囲と裁判官の許可
一方で、「財産に重大な損害を及ぼすおそれのある犯罪」という定義は幅が広い[4]。どの程度の事件まで端末への接続が認められるのか、国会審議で具体例に即した説明が求められる。
犯罪の捜査ではなく「被害の予防」を目的にした仕組みであることから、裁判官の許可が実際にどこまで歯止めになるかも論点になる。通知の例外や消去の確認方法など、運用の詳細を国家公安委員会規則に委ねる部分が多い点にも注意が要る。
脚注
- 首相官邸「令和8年10月16日(金)定例閣議案件」 https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2026/kakugi-2026101601.html
- 警察庁「国会提出法案」 https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/index.html
- 警察庁「警察官職務執行法の一部を改正する法律案要綱」(2026年10月16日) https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/20261016/01_youkou.pdf
- 警察庁「警察官職務執行法の一部を改正する法律案 案文・理由」(2026年10月16日) https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/20261016/02_anbun_riyuu.pdf
- 衆議院「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」(第217回国会) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21709005.htm

