供給網リスクは二正面 中東は「価格」、中国は「蛇口」で効いてくる

日本企業の供給網が、性格の異なる二つのリスクに同時にさらされている。中東情勢と、中国の輸出管理だ。

この二つは、しばしば「地政学リスク」とひとくくりに語られる。だが企業の現場に効いてくる形はまるで違う。中東は価格に、中国は数量に効く。対処法も当然、変わってくる。

中東——輸送路が細ると、価格が跳ねる

中東リスクの起点は2026年2月28日、米国とイスラエルによるイランへの攻撃だった。WTI原油先物は攻撃前の1バレル67ドル程度から、3月9日には一時120ドル近くまで急騰した[1]。

日本にとって深刻なのは依存度の高さだ。2025年時点で原油輸入の約94%を中東に頼り、そのタンカーの約8割がホルムズ海峡を通る[1]。海峡の通航が滞れば、量の確保以前に価格が動く。

そして波及は燃料にとどまらなかった。原油から作られるナフサはトレーやフィルム、パウチといった包装資材の原料である。帝国データバンクの調査では、2026年7月の食品値上げのうち「包装・資材」を要因とするものが69.8%を占め、前年同月から10.5ポイント上昇した。中東情勢の影響を要因に挙げた値上げは24.7%にのぼる[2]。

中東リスクの特徴は、影響が広く薄く、しかし速く伝わる点にある。原油という上流の一点が動くと、数か月遅れで店頭価格にまで届く。裏を返せば、価格として現れる分だけ企業は対処の見通しを立てやすい。

中国——許認可という「蛇口」

中国のリスクは、これとまったく違う形をとる。

中国は2025年2月にタングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウム関連品目を、4月にはサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムなど7種のレアアース関連品目を輸出管理の対象に追加した。10月には再輸出規制を含む公告を公布し、2026年1月6日には日本向けの両用品目の輸出管理を強化している[3]。

影響は数量に直接出た。レアアース磁石は2025年4〜5月に輸出量が大きく減り、5月の25.7トンは近年で最低の水準となった[3]。

企業がより手を焼いているのは、規制そのものより運用の不透明さだという。ジェトロの調査では、該非判定の曖昧さに加え、許認可の取得に申請から3か月以上かかるケースや、税関検査に数週間から1か月を要する事例が報告されている。申請時に営業秘密の提出を求められることへの懸念もある[3]。

価格が上がるなら、企業はコストとして織り込める。だが許可が下りるかどうか、いつ下りるかが読めない状況では、生産計画そのものが立たない。これが「蛇口」型のリスクの厄介さだ。

損失規模と、備えの方向

野村総合研究所の木内登英氏は、中国のレアアース輸出規制が3か月続いた場合の日本の経済損失を約6600億円(GDP押し下げ0.11%)、1年続けば約2.6兆円(同0.43%)と試算している。2012年の規制時における産業別の生産減少率を、現在の市場規模に当てはめた推計だ[4]。

金額の大きさもさることながら、注目すべきは損失が期間に比例して膨らむ構造である。在庫で持ちこたえられるのはせいぜい数か月で、その先は生産の停止が現実味を帯びる。

脱中東の動きは実際に進んでおり、2025年には米国からの原油輸入が前年比2.8倍に増えた。それでも供給量や価格、輸送コストを考えれば、中東原油を完全に置き換えることは現実的ではないとされる[5]。

結局のところ、目指すべきは「脱中東」でも「脱中国」でもなく、一つの経路に依存しない構造だろう。調達先の多様化、代替技術の開発、供給網の可視化——どれも一朝一夕には進まないが、リスクが二正面になった以上、片方だけを見た備えでは足りない。今年の値上げラッシュは、その現実を家計の側から突きつけている。

脚注

  1. 野村総合研究所・木内登英「イラン情勢を受けた原油価格上昇の日本経済・国民生活への影響」(2026年3月13日) https://www.nri.com/jp/media/journal/kiuchi/20260313.html
  2. 帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年7月」(2026年6月30日) https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260630-neage26y07/
  3. ジェトロ「中国のレアアース輸出管理(1)日本への磁石輸出に大きな影響」(2026年3月10日) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2026/0101/5229e687b7a111eb.html
  4. 野村総合研究所・木内登英「中国が日本にレアアース輸出規制を導入した場合の経済損失」(2025年11月28日) https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20251128_2.html
  5. ジェトロ「中東リスクと物流(1)中東情勢悪化がホルムズ海峡に与える影響」 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2026/0402/573ac933a1d8e17d.html
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