グテーレス氏、任期最後の国連総会演説

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2026年9月22日、ニューヨークの国連本部で始まった第81回国連総会の一般討論で、事務総長として最後となる冒頭演説を行った。演説の軸に据えたのは「力(パワー)」だった。戦争と平和、不平等、気候危機、人工知能(AI)を、人類の未来を左右する「力をめぐる四つの大きな試練」と位置づけた[1]。

グテーレス氏が国連総会で示した「力」の変化

演説全文によると、グテーレス氏はまず、力のあり方が三つの面で作り変えられていると指摘した。新たな国々が経済や技術で影響力を持つようになったこと、政府から一握りの企業や個人へ力が移っていること、そして人間が機械に判断を委ね始めていることだ[1]。

そのうえで、世界が多極化に向かう流れは後戻りしないとし、相互依存と共通のルールで結ばれた「ネットワーク型の多極化」を目指すべきだと訴えた。世界が経済・技術・安全保障の仕組みを別々にする二つの陣営に割れる事態を、同氏はこれまで「大分断」と呼んで警告してきた[1][2]。超大国に対しては、その力にも限界があると認めることから始めるよう求めた[1]。

AIには「冷戦期の教訓」を

四つの試練のうち、演説で最も具体的な提案を伴ったのがAIだった。グテーレス氏は、就任直後の2017年の総会演説ですでにAIの影響を警告していたことを自ら引用し、危険は技術そのものではなく、説明責任を伴わない技術だと述べた[1]。

同氏は、冷戦期に対立する大国が誤解や事態の悪化を防ぐ仕組みを築いたことを例に挙げ、AIの技術を主導する国々は安全上のリスクの情報を共有し、試験や評価で協力するべきだとした。「最も大きなAIの能力を持つ政府は、人類に対して最も大きな責任を負う」とも語った[1]。次の段階として、AIの開発の速度を責任ある形に保つ条件づくりと、独立した監視を伴う多国間の「AIリスク管理の枠組み」づくりを掲げ、生死に関わる判断を機械に委ねてはならないと訴えた[1]。

安保理改革、気候、男女平等

平和と安全では、中東、ウクライナ、スーダン、ミャンマーの紛争に触れたうえで、安保理の改革を求めた。国連発足時にアフリカの多くは植民地支配下にあり、今もアフリカに常任理事国の議席がないとして、その状態を「不公正で弁解の余地がない」と述べた[1]。

気候では、各国政府に対し、気温上昇を1.5度に抑える目標と整合する化石燃料からの移行計画をつくるよう求め、石油大手の責任を厳しく問うた[1]。不平等の試練の中では、国連が幹部、本部、専門職員のすべてで初めて男女同数を達成したと報告した[1][2]。

「法の力」を託す演説

グテーレス氏は演説の終わりに、残る任期の約100日も決意を持って務めると述べ、1月1日に事務総長でなくなった後も国連憲章の価値を訴え続けるとした[1]。10年の任期を通じて強くなった確信として、「最大の力は支配する力ではない。すべての人のための未来を築く力だ」という言葉も残した[1]。

演説は、個別の紛争の解決策を示すものというより、力の使われ方そのものを問う内容だった。事務総長の権限は限られ、安保理が拒否権で動けない場面が続いてきた。だからこそ、AIの危機管理に冷戦期の例を持ち出し、大国同士の対話の必要を正面から説いた点は、後任に引き継ぐ具体的な課題として重みを持つ。提案が実を結ぶかどうかは、事務総長ではなく、演説を聞いた加盟国の側にかかっている。

脚注

  1. United Nations "The Secretary-General -- Address to the Opening of the General Debate of the 81st Session of the General Assembly"(2026年9月22日、演説全文、英語) https://tanzania.un.org/en/323163-secretary-general-address-opening-general-debate-81st-session-general-assembly
  2. UN News "Guterres: 'Cracks have become canyons' as world faces four tests of power"(2026年9月22日、英語) https://news.un.org/en/story/2026/09/1168392
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