
政府の情報収集・分析(インテリジェンス)の機能をどう強めるかを話し合う有識者会議が、2026年9月28日に首相官邸で初めて開かれた。高市早苗首相は会合の締めくくりに、政府の情報活動の中長期的な進め方を「国家情報戦略」としてまとめ、公表する必要があると述べた[1]。
国家情報戦略を議論する有識者会議の顔ぶれ
会議は9月25日の首相決裁で設けられ、首相の下で開かれる。構成員は国際政治や安全保障、法律、サイバーの研究者、元検察官、弁護士、商社や通信・報道機関の経営者ら17人で、座長は渡部俊也・東京大学名誉教授が務める[2][1]。事務は、7月に内閣情報調査室を改組して発足した内閣官房国家情報局が担う[3]。
首相「改革の第一歩に過ぎない」
首相は、中国・北朝鮮の軍事力の増強や、中ロ・ロ朝の連携の強まりを挙げたうえで、国内でも外国の情報機関員が関わる先端技術の流出、官民の重要情報を狙うサイバー攻撃、世論を誘導しようとする偽情報の拡散といった脅威が高まっていると述べた[1]。
政府は5月に国家情報会議設置法を成立させ、7月末に首相が議長を務める国家情報会議と国家情報局を設けた。首相はこれらを「インテリジェンス改革の第一歩に過ぎません」と位置づけ、外国による不当な干渉の防止策の強化と、対外情報機能の充実を「更に進めていかなければなりません」と語った[1][4]。
事務局資料が示した脅威と論点
国家情報局の説明資料は、懸念国などによる不当な工作の例として、ロシアの情報機関員とみられる在日通商代表部員が工作機械関連会社の社員に金銭を渡して営業秘密を不正に得たとして警視庁が摘発した事件や、衆院選に際して外国のものと疑われる不審なアカウントの投稿を政府が一定数把握したことを挙げた[3]。
そのうえで今後の課題として、法制度を含むカウンターインテリジェンス(防諜)の強化と、対外情報機能を含む収集・分析能力の強化を示した。国家情報戦略に盛り込む項目としては、情報活動の意義、情報部門と政策部門の分離による客観性の担保、人材の確保・育成、AIなど先端技術の活用、個人情報・プライバシーの保護と民主的統制を想定している[3]。
「民主的統制」をどこまで具体化できるか
首相は5月の法成立時の会見で、国会審議でプライバシーへの懸念が示されたことに触れつつ、法律は行政機関どうしの関係を定めるものでリスクを高めないと説明していた[4]。しかし、次の段階として示された外国の干渉への対策や対外情報機関は、行政の内側にとどまらず、市民や企業、報道の活動に接する領域だ。
何を「不当な干渉」とみなすのかの線引きを誤れば、海外の研究者や団体と協力する活動まで疑いの目で見られかねない。情報機能の強化そのものは、他の主要国が当然のように備えてきた国家の基盤であり、日本が遅れてきたのも事実だ。だからこそ、事務局資料が自ら掲げた「民主的統制」を、国会による監視の仕組みや処罰対象の限定といった具体的な形で示せるかが、戦略の信頼性を左右する。議論の過程をどこまで公開するかも問われる。
脚注
- 首相官邸「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議」(総理の一日、2026年9月28日) https://www.kantei.go.jp/jp/105/actions/202609/28intelligence.html
- 内閣官房「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議の開催について」(第1回会議 資料1、2026年9月25日内閣総理大臣決裁) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/intelligent_features_kyoka/dai1/shiryo1.pdf
- 内閣官房国家情報局「インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議 説明資料」(第1回会議 資料3、2026年9月28日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/intelligent_features_kyoka/dai1/shiryo3.pdf
- 首相官邸「国家情報会議設置法の成立についての会見」(2026年5月27日) https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0527kaiken.html

