
米ウィスコンシン州ミルウォーキーで9月30日と10月1日に開かれた20カ国・地域(G20)の貿易相会合で、議長国の米国が主要テーマに掲げた過剰生産と強制労働の議題は、いずれも合意に至らなかった。議長を務めた米通商代表部(USTR)のグリア代表が、会合後の声明で明らかにした[1]。G20全体で一致できたのは、食料貿易を威圧の手段に使うことを非難する声明だけだった[1][2]。
G20貿易相会合、過剰生産で対立
会合では、構造的な過剰生産能力・過剰生産への対処、最恵国待遇(MFN)原則の見直し、サプライチェーン(供給網)からの強制労働の排除、食料貿易の武器化への非難の四つが議論された[3]。最大の焦点は、鉄鋼などで安い製品が大量に輸出され、各国の産業に打撃を与えている「過剰生産」への対応だった。
グリア氏は声明で、多くの参加国が主要な分野の構造的な過剰生産に対処する決意を示したとする一方、「ごく一部の参加国が協調行動への道筋をつくることを拒んだのは残念だ」と述べた[1]。
日本からは宮本周司経済産業副大臣が出席した。宮本氏は、不当に安い製品の大量流入のリスクは先進国・新興国・途上国を問わず全ての国に及ぶとして、これをG20の共通理解とすべきだと訴えた。一方で、各国が保護主義に陥り、無関係な国を巻き込んだ貿易措置の応酬や市場の分断を招く事態は避けるべきだとも述べた[3]。
強制労働でも全会一致ならず
サプライチェーンから強制労働を排除する議題も、G20全体の合意には至らなかった[1]。米国は、メキシコ、アルゼンチンの貿易相とともに、強制労働の排除に関する声明を別に出した[4]。グリア氏は、合意に至らなかったことに失望を示しつつ、ほかの国・地域も加わることに期待を表明した[1]。
米国はすでにこの分野で独自の措置を取っている。7月には、強制労働で作られた製品の輸入を禁じていないことなどを理由に、日本を含む60カ国・地域に追加関税を課した[7]。今回の会合は、そうした一方的な措置に多国間の「お墨付き」を得る場にはならなかったといえる。
一致したのは「食料の武器化」への非難
唯一合意できたのは、農産物や食料の貿易を政治的・経済的な威圧に使うことへの非難だった[2]。グリア氏は、食料の武器化は人道面でも経済面でも重大な脅威だとして、G20の貿易相が非難で一致したと評価した[2]。
鉄鋼では日米欧が別の枠組みで協調
G20全体での合意が難しい中、同志国による別の枠組みは前に進んだ。会合初日の9月30日、同じミルウォーキーで「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)」の閣僚会合が開かれ、共同行動に関する包括的枠組み(ミルウォーキー枠組み)を採択した[3][5]。議長を務めたグリア氏は、同志国が同様の政策を取れば、世界的な鉄鋼の過剰生産を引き起こしている国の責任を追及できると強調した[5]。
米国は独自の関税措置を強める構え
米国は2026年3月、通商法301条に基づき、過剰生産を巡って中国やEU、日本、インドなど16の経済圏の調査を始めている[6]。
今回の会合は、G20が通商ルールで足並みをそろえる難しさを改めて示した。全会一致を原則とする場では、問題の当事者とされる国が同意しない限り、文書はまとまらない。米国が同志国の小さな枠組みと一方的な関税へと軸足を移すほど、G20の存在感は薄れていく。日本にとっても、鉄鋼の過剰生産対策のように同志国と協調しやすい分野と、自国が301条調査の対象となっている分野とで、難しい立ち回りを迫られることになる。
脚注
- USTR "Chair’s Statement of the G20 Trade Ministerial"(2026年10月2日) https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/october/chairs-statement-g20-trade-ministerial
- USTR "Ambassador Greer Issues a Statement on G20 Trade Ministers Reaching Consensus on Condemning the Weaponization of Food through Coercive Trade Actions"(2026年10月) https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/october/ambassador-greer-issues-statement-g20-trade-ministers-reaching-consensus-condemning-weaponization
- 経済産業省「宮本経済産業副大臣が米国へ出張しました」(2026年10月2日) https://www.meti.go.jp/press/2026/10/20261002001.html
- USTR "Ambassador Greer Commends Trade Ministers Signing on to Statement Eliminating Forced Labor in Global Supply Chains"(2026年10月) https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/october/ambassador-greer-commends-trade-ministers-signing-statement-eliminating-forced-labor-global-supply
- USTR "Ambassador Greer Issues Statement Following the Ministerial Meeting of the Global Forum on Steel Excess Capacity"(2026年9月30日) https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/september/ambassador-greer-issues-statement-following-ministerial-meeting-global-forum-steel-excess-capacity
- USTR "USTR Initiates Section 301 Investigations Relating to Structural Excess Capacity and Production in Manufacturing Sectors"(2026年3月11日) https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/march/ustr-initiates-section-301-investigations-relating-structural-excess-capacity-and-production
- ジェトロ ビジネス短信「米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定」(2026年7月) https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/07/a4c34f1e9b687c71.html

