
中部電力は9月25日、浜岡原発3、4号機(静岡県御前崎市)の再稼働に向けた審査の申請について、取り下げを原子力規制委員会に提出した[1]。審査の過程で、想定する地震の揺れ(基準地震動)を巡るデータの不正が発覚したためだ。調査委員会の報告書を受けた同社は、申請資料や審査での対応の信頼性に「重大な疑義が生じている」とし、申請を続けるのは「適切ではない」と結論づけた[1][2]。電力会社が自ら申請を取り下げる、異例の対応となった。
浜岡原発の再稼働審査、10年超の蓄積が白紙に
浜岡原発の3、4号機は、2014年2月の申請から再稼働の前提となる適合性審査を受けてきた[2][5]。申請の取り下げで、10年を超えて積み重ねた審査は白紙に戻る。
浜岡原発は、2011年の東京電力福島第1原発事故の後、当時の菅直人首相の要請を受けて運転を停止し、それ以来一度も発電していない。想定される南海トラフ地震の震源域に近く、耐震性の評価は審査の最大の焦点だった。
基準地震動のデータ不正 何が行われたのか
問題となったのは、原発の耐震設計の前提となる基準地震動の策定の過程だ。原子力資料情報室がまとめた規制当局の説明によると、中部電力は審査会合で、20組の地震動を計算し、その中から平均に最も近い波を「代表波」として選んだと説明していた[3]。
しかし実際には、2018年ごろ以前は20組のセットを多数作り、その中から都合のよいセットを選んでいた。2018年ごろ以降は、平均に最も近くない波をあらかじめ代表波に決めたうえで、その波が平均に最も近くなるよう残りの19組を選んでいたとされる[3]。原子力資料情報室は、基準地震動の策定でデータが捏造されたとして、徹底した真相解明と過去の審査の全面的な見直しを求めている[3]。
不正は、外部から規制当局への情報提供をきっかけに明らかになった。2025年2月に原子力施設安全情報申告制度に基づく情報が寄せられ、規制庁が中部電力との面談を重ねた。中部電力は2025年12月に社内調査で不正を確認したと規制庁に説明し、2026年1月5日に不正の疑いを公表した[3]。
調査報告書「経営陣の叱責が圧力に」
中部電力が9月14日に公表した、外部の弁護士でつくる調査委員会の報告書は、経営層が直接不正を指示したとは認定しなかったものの、経営層の一部が「当社の努力が足りないだけである」などと審査の遅れを批判・叱責していたと指摘した。こうした発言が担当者らを不適切な行為へ駆り立てる要因になり得たとしている[4]。当時社長だった勝野哲会長の2019年の内部通報への対応についても、経営トップとしてより慎重な判断を行うことが望ましかったと指摘した[4]。
報告書はまた、担当者らが自分たちは正しいことをしていると考えて不適切な行為を続けた「独自の正当化理論」の存在を背景に挙げ、社内の一部に、自分たちにとって重要な使命などを妨げる指摘を排除する傾向が見られたとも指摘した[4]。これを受けて、林欣吾社長と勝野会長は9月30日付で退任し、10月1日付で安井稔氏が社長に就く[5]。
不正は地震動のデータにとどまらない。1、2号機の廃炉作業の実施報告や費用請求を巡っても不適切な事案が見つかっており、中部電力は25日、経済産業相の報告徴収などに対して報告した。全容の解明には、なお一定の期間がかかる見込みだとしている[6]。
「データへの信頼」が崩れた重み
原発の安全審査は、事業者が出すデータが正しいことを前提に成り立っている。規制委がすべての計算を一からやり直すことはできず、事業者の誠実さに頼らざるを得ない部分がある。今回の不正は、その前提を根元から揺るがした。しかも対象は、巨大地震の震源域に近い原発の耐震性という、最も重要な論点だった。
申請を自ら取り下げたことは、中部電力なりのけじめと受け止めることもできる。ただ、再申請しても、地元や規制委の信頼を取り戻すのは容易ではない。経営陣の刷新にとどまらず、専門性の高い業務を外部の目でチェックする仕組みをどう作るのか。再稼働の議論に戻る前に、中部電力が示すべきことは多い。
脚注
- 中部電力「浜岡原子力発電所3号機・4号機の設置変更許可申請書などに関する申請取下げの提出」(2026年9月25日) https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1218380_3273.html
- 中部電力「浜岡原子力発電所3号機・4号機の設置変更許可申請などの取り下げ」(2026年9月14日) https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1218334_3273.html
- 原子力資料情報室「【声明】浜岡原発の基準地震動策定でデータ捏造 徹底した真相解明と、過去の審査の全面的な見直しを求める」 https://cnic.jp/63596
- 中部電力「浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案に関する調査報告書」(適時開示資料、2026年9月14日) https://www.chuden.co.jp/ir/ir_kaiji/__icsFiles/afieldfile/2026/09/13/1.pdf
- The社史「中部電力|再稼働申請の取り下げと、会長・社長の退任による経営体制の刷新(2026年)」 https://the-shashi.com/tse/9502/decisions/hamaoka-seismic-data-2026/
- 中部電力「浜岡原子力発電所1号機・2号機の解体撤去工事に係る実施報告・費用請求における不適切事案に関する経済産業大臣からの報告徴収および使用済燃料再処理・廃炉推進機構からの指示への報告」(2026年9月25日) https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1218369_3273.html

