雇調金不正の督促漏れ104億円 会計検査院が指摘

新型コロナウイルス禍で支給が膨らんだ雇用調整助成金(雇調金)などの不正受給を巡り、国が返還を求める債権の管理がずさんだったことが分かった。会計検査院は2026年9月29日、13の労働局を調べた結果、督促状の送付などが適時適切に行われていない債権や、時効を迎えても整理されていない債権が計1046件、約104億8000万円(104億7814万余円)あったと公表し、厚生労働相に是正と改善を求めた[1][2]。

会計検査院が指摘した雇調金の債権管理

検査院が調べたのは、北海道、青森、福島、埼玉、千葉、東京、福井、愛知、滋賀、奈良、広島、高知、福岡の13労働局だ。2025年3月末時点で管理されている債権などのうち、金額の大きいものや長く残っているものを中心に、2054件、約214億4000万円を対象とした[2]。

督促状の送付などに問題があったのは、福井を除く12労働局だった。主な内容は次のとおりだ[2]。

  • 督促状を送っていなかった:994件、約102億円
  • 電話や訪問などによる初期の納付の働きかけをしていなかった:339件、約21億9000万円
  • 督促後も納付がないのに、法務大臣への強制履行の請求の依頼をしていなかった(9労働局):119件、約5億2000万円
  • 時効を止める手続きを一度も取らないまま時効を迎えた(8労働局):91件、約2億6000万円
  • 時効を迎えた後も1年以上、帳簿上の整理をしていなかった(3労働局):41件、約2億1000万円

報告書は事例も示した。福島労働局は、2020〜22年度に雇調金を不正受給した事業主に計約1598万円の返還を求める納入告知書を2024年8月に送ったが、その後1年以上、納付の働きかけも督促状の送付もしていなかった。検査院の指摘を受け、2026年4月と5月にようやく対応したという[2]。

コロナ禍で膨らんだ支給と不正

雇調金は、業績の悪化で従業員を休ませた事業主に、休業手当の相当額を助成する制度だ。コロナ禍では要件を緩める特例が設けられ、休業支援金などの新しい制度も加わった。検査院によると、これら4つの助成金などの支給は、2019年度の6401件、約42億円から、20年度には約416万件、約3兆2789億円に急増し、19〜24年度の合計は約1352万件、約6兆8725億円に上った[2]。

迅速な支給のために書類を簡素にし審査を急いだことなどを背景に、不正受給も相次いだ。不正受給などで返還を求める債権は、2019年度末の1780件、約62億円から、24年度末には1万8814件、約747億円に増えた[2]。

なぜ放置されたのか

報告書によると、強制履行の請求をしていなかった理由として、複数の労働局が「ノウハウがない」ことを挙げた。厚労省は手続きに使う文書の記載事項を示すにとどまり、具体的な手順を指導していなかった[2]。厚労省は一部の事務を外部に委託していたが、大半は労働局が直接担ったままで、債権の急増に体制が追いついていなかったと検査院はみている[2]。

検査院は厚労省に対し、通達などで労働局を改めて指導するよう是正を求めた。あわせて、今後も同じような危機で支給が急増すれば多数の債権が生じるとして、債権管理を効率的に進める方策を検討するよう意見を示した[2]。

「配る速さ」と「取り戻す力」

コロナ禍の雇調金が雇用の維持に役立ったことは確かだ。審査に時間をかけていれば、資金繰りに行き詰まる企業が増えていたかもしれない。ただ、審査を緩めて素早く配るのであれば、後から不正を見つけて回収する体制はその前提条件になる。督促状さえ送られず、時効で請求できなくなった債権があったことは、その前提が欠けていたことを示す。

雇調金の財源は、事業主が負担する雇用保険料や税金だ。次の危機で同じ特例を設けるとき、回収まで含めた設計を最初から用意しておけるか。今回の指摘は、緊急時の給付制度そのものへの宿題でもある。

脚注

  1. 会計検査院「会計検査院法第34条の規定による処置要求及び同法第36条の規定による意見表示(令和8年(2026年)9月29日)」 https://www.jbaudit.go.jp/report/new/kobetsu07/r080929.html
  2. 会計検査院「雇用調整助成金等に係る不正受給返納金等債権の債権管理について」(本文、2026年9月29日) https://www.jbaudit.go.jp/report/new/kobetsu07/pdf/080929_zenbun.pdf
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