
NTTが研究開発を進める次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」は、端末からネットワークまで光の技術を取り入れ、通信と計算の土台を置き換えていく構想だ[2]。NTTは、利用者ごとに光の波長を割り当てて通り道を分ける仕組みを特徴に挙げている[2]。生成AIの普及で「AI主権」が論点になるなか、通信網そのものを分けられるという特徴は、AIを安心して使うための基盤として注目される。
IOWNとは 光で情報を運び、処理する
IOWNを構成する柱の一つが、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)だ。端末から網までを光でつなぎ、利用者ごとに光の波長の通り道を端から端まで用意する。NTTはこのAPNで、2030年に電力効率を100倍、伝送容量を125倍に高め、端末間の遅延を200分の1に縮めることをめざしている[2]。
もう一つの柱が、コンピューターの内部の回路をできるだけ光でつなぐ「光電融合」の技術だ[2]。NTTは米ブロードコムなどと協力し、光電融合のスイッチを2026年に製品化する計画も明らかにしている[1]。
波長で分けられる光の回線
利用者ごとに波長の通り道を割り当てるAPNの仕組みは、裏を返せば、用途や組織ごとに物理的に分かれた回線を用意できることを意味する[2]。「分けられる」という特徴は、ここに由来する。消費電力の小ささも、AIの計算需要の拡大で電力消費が膨らむなかで、エネルギーの制約への一つの答えとして位置づけられている。
なぜ今「主権」なのか
「AI主権(ソブリンAI)」という言葉は、生成AIの急速な普及とともに世界で使われるようになった。AIの開発や運用を、国外の少数の巨大IT企業のクラウドや基盤モデルに頼りきると、データの扱いやサービスの継続を自国でコントロールできなくなる。そうした懸念から、各国が自前のAIや計算基盤の整備を急いでいる。
日本でも、海外のクラウドやソフトウエアへの支払いがかさむ「デジタル赤字」が課題とされてきた。NTTは自社開発の大規模言語モデル「tsuzumi」も手がけており、通信基盤からAIまでを国内で担える体制を示すことは、同社の事業戦略とも重なる。
「閉じる」ことの価値と難しさ
IOWNの発想で注目したいのは、AIの主権を、AIのモデルやデータセンターだけでなく、それらを結ぶ「通信網」の段階から考えられる点にある。医療や金融、製造業などの機密性の高いデータを、物理的に分けられた光の回線の中だけで扱えるなら、情報漏えいや不正アクセスへの不安は小さくなる。企業がAIの活用に二の足を踏む理由の一つを取り除ける可能性がある。
一方で、インターネットの強みは、誰もが同じ仕組みにつながれる「開かれていること」にあった。閉じた空間が増えすぎれば、データを組み合わせて新しい価値を生む機会が失われかねない。閉じるべき領域と開いておくべき領域をどう線引きするか、異なる空間同士をどうつなぐかという設計が問われる。
最大の課題は、世界への広がりだろう。通信の基盤は、多くの国や企業が採用して初めて標準になる。IOWNグローバルフォーラムには海外の企業も加わっているが、日本発の技術が国際標準を取れずに孤立した例は過去にも少なくない。「AI主権」を掲げながら、海外の仲間をどれだけ増やせるか。IOWNは技術と同時に、仲間づくりの力を試されることになる。
脚注
- INTERNET Watch「NTT、『IOWN 2.0』を発表。Broadcomらと協業し光電融合スイッチを2026年に製品化」 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/2053692.html
- NTT「APN | 機能と特性 | IOWN」 https://www.rd.ntt/iown/0002.html

