
米ニューヨークの国連本部で開かれている国連総会の一般討論は28日、最終日を迎えた。この日、中国の孫磊国連次席大使が答弁権を行使し、国連憲章に残る「旧敵国条項」の削除に反対する立場を示した[1]。きっかけは、高市早苗首相が22日の演説で条項の早期削除を訴えたことだった[2]。
中国「削除も改正もされてはならない」
中国国連代表部が公表した発言によると、孫氏は、旧敵国条項は戦後の国際秩序を維持するための重要な制度的な取り決めで、ファシズムと軍国主義が再び国際の平和と安全を脅かすことを防ぐためのものだと主張した。そのうえで、条項は憲章の不可欠な一部であり、日本の最近の動きを背景にその意義はさらに明らかになったとして、削除も改正もされてはならないと述べた[1]。
旧敵国条項とは
旧敵国条項は、国連憲章の第53条、第77条、第107条にある規定を指す。第53条は「敵国」を、第二次世界大戦中に憲章のいずれかの署名国の敵国であった国と定めており、具体的な国名は書かれていない[4]。日本やドイツ、イタリアなどが該当すると一般に解されている。
特に知られる第53条は、地域的な取り決めに基づく強制行動には安全保障理事会の許可が必要だとしつつ、旧敵国に対する措置は例外として扱う内容になっている。国連発足から80年以上がたった現在では、実際に適用される場面は想定しにくい。
外務省によると、旧敵国条項は1995年の国連総会決議で既に「死文化している」とされた。2005年9月の国連首脳会合で採択された成果文書には、首脳レベルの文書として初めて、3つの条文から旧敵国条項を削除することが盛り込まれた[3]。それでも条文は今も残っている。削除には憲章の改正が必要で、安保理の常任理事国を含む加盟国の3分の2の批准が求められるためだ。
首相演説の狙いと中国の反応
高市首相は22日の一般討論演説で、2005年に国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの総会決議が採択されたことに触れ、「この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです」と述べた。さらに「70年間に渡り、国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます」と訴えた[2]。
「合意済みの方針」を動かせるか
今回のやり取りは、条文そのものの効力よりも、歴史をどう語るかを巡る争いの色合いが濃い。中国は条項を戦後秩序の象徴として持ち出し、日本の防衛力強化をけん制する材料にしている。日本にとっては、総会が過去に示した削除の方針を示し、議論を「すでに決まったことを実行するかどうか」に引き戻すことが課題になる。
日本の主張には筋がある。国連の総会が二度にわたって方針を示した以上、条文を残し続ける理由は乏しい。ただ、憲章改正は安保理改革と同じく、常任理事国が一国でも反対すれば進まない。日本がドイツなどと進める安保理改革の議論とも重なる難しさがある。
条項の削除を実現するには、国際会議の場で言い分をぶつけ合うだけでなく、改正の機会をつくるための地道な多国間の働きかけが欠かせない。国連の場での言い合いで終わらせず、「死文」を実際に消すための道筋を示せるかどうかが、日本外交に問われている。
脚注
- 中国国連代表部「Remarks by Ambassador Sun Lei in Exercise of the Right of Reply at the General Debate of the 81st Session of the UN General Assembly」(2026年9月29日) https://un.china-mission.gov.cn/eng/hyyfy/202609/t20260929_12033562.htm
- 外務省「第81回国連総会における高市早苗内閣総理大臣の一般討論演説」(2026年9月22日) https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/un/pageit_000001_03218.html
- 外務省「外交青書2006 (5)旧敵国条項の削除」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2006/html/h3/h3_1_16.html
- 国際連合広報センター「国連憲章テキスト」 https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/

