法人の実質的支配者、届け出を義務化 法案を提出

政府は2026年10月23日、法人を実際に支配している人物、いわゆる「実質的支配者」の情報を法務局に届け出るよう義務づける法案を国会に提出した[1]。上場企業などを除く全ての法人に、実質的支配者の把握と届け出を求める内容で、マネーロンダリング(資金洗浄)対策や、土地を所有する法人の実態把握に使う[2]。

法案の名称は「法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案」で、略称は法人実質的支配者透明化法案[2]。施行に伴う関係法律の整備法案も同時に提出された[1]。

実質的支配者の届け出、法案の中身

政府が公表した法案の概要によると、主な内容は次のとおり[2][3]。

  • 対象:上場企業や国・自治体などを除く全ての内国法人。国内で継続的に取引する外国会社、国内に事務所を置く外国法人、国内の土地・建物を所有する外国法人も含む
  • 実質的支配者の定義:株式会社などでは、議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接または間接に持つ個人など
  • 届け出:法人は実質的支配者の氏名、住所、生年月日、国籍などを把握し、設立時に法務局へ届け出る。変更があったときも届け出る
  • 罰則など:届け出義務違反には罰則を設ける。届け出期限から3年間届け出がない法人は登記を閉鎖する
  • 施行:一部を除き、公布から1年6か月以内に政令で定める日

集めた情報は法務大臣が「実質的支配者情報ファイル」として記録し、法人の清算などから7年間保存する[3]。

情報を見られるのは行政機関と金融機関などに限定

法務局が持つ実質的支配者の情報は、誰でも見られるわけではない。閲覧できるのは、行政機関が法令に定めた事務のために必要な場合と、犯罪収益移転防止法の「特定事業者」が、届け出た法人の同意を得た場合に限られる[2]。特定事業者とは、本人確認などを行う金融機関や士業者などを指す[2]。

特定事業者や行政機関は、ファイルの情報が不正確だと知ったときは法務大臣に通報する義務を負う[2][3]。信託についても、受託者に委託者や受益者などの情報の把握と記録の保存を義務づける[2]。

FATF審査とG7で唯一の未整備

法案の背景には国際的な要請がある。政府の概要資料は、実体のない法人を悪用した資金洗浄の事例が多数明らかになり、法人の実質的支配者を把握する必要性が国際的に高まっていると説明する[2]。資金洗浄対策の国際基準を定める金融活動作業部会(FATF)も制度の整備を求めており、2028年夏ごろに予定される第5次対日相互審査に向けて対応が必要としている[2]。

概要資料は、G7の中で実質的支配者の届け出を義務づける制度が無いのは日本だけだとも記している[2]。匿名・流動型の犯罪グループ(トクリュウ)による資金洗浄への対策や、経済安全保障での活用も目的に挙げている[2]。

土地取得の規制とも連動

法案は、重要施設の周辺や国境離島の土地利用を調べる「重要土地等調査法」の運用にも使われる[3]。首相からの要請があれば、法務大臣は土地を所有する法人の実質的支配者の情報を提供する[2]。外国の個人や企業が日本の法人を通じて土地を取得する場合でも、背後にいる人物をたどれるようにする狙いだ。

国内に土地や建物を持つ外国法人が対象に含まれたのも、この目的と結びついている[2]。これまで、法人の登記からは役員は分かっても、株式を通じて実際に支配している人物までは分からなかった。

中小企業の負担と情報の正確さが審議の論点に

上場企業を除く全ての法人が対象になるため、届け出の手間は多くの中小企業にも及ぶ。株主構成が複雑な法人や、海外の親会社を持つ法人では、議決権を間接的に持つ人物の確認に時間がかかる場合もある。無届けの法人にはまず書面で催告するとしているが、制度の周知と届け出の実務の分かりやすさが、施行までの課題になる[2]。

もう一つの論点は、届け出の正確さをどう担保するかだ。閲覧を限定した設計はプライバシーへの配慮といえる一方、虚偽の届け出を見抜く仕組みは、通報や法務大臣による是正の求めが中心になる[2][3]。12月12日までの臨時国会の会期中に成立するかどうかも含め、審議では実効性の議論が重ねられるだろう。

脚注

  1. 内閣官房「第222回 臨時国会 提出法案」 https://www.cas.go.jp/jp/houan/222.html
  2. 内閣官房「法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案(法人実質的支配者透明化法案)の概要」(2026年10月23日) https://www.cas.go.jp/jp/houan/261023/shiryo00.pdf
  3. 内閣官房「法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案要綱」(2026年10月23日) https://www.cas.go.jp/jp/houan/261023/shiryo01.pdf
おすすめの記事