法人に実質支配者の届け出義務 政府が新法の制度案

政府は、法人を実質的に支配する個人(実質的支配者、BO=ベネフィシャルオーナー)の情報を法人に届け出させる新法の制度案を、9月24日の内閣官房の有識者会議で示した[1]。上場企業などを除く全ての内国法人を対象に、BOの氏名、住所、生年月日、国籍(検討中)の届け出を義務づける内容だ[1]。7月に閣議決定した「骨太の方針2026」は、法人の実質的支配者情報の登録などの立法化を早急に進めるとしており[1]、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)などによる資金洗浄の対策や、土地を持つ法人の実質的な支配者の把握につなげる狙いがある[1]。

実質的支配者の新法案、その柱は

9月24日に内閣官房の有識者会議で示された制度案によると、新法の主な内容は次のとおりだ[1]。

  • 対象:国内に本店などを持つ全ての内国法人(上場企業などを除く)。国内で継続的に取引する、国内に事務所を置く、国内の不動産を持つ、のいずれかに当たる一部の外国法人も含む
  • 届け出る情報:BOの氏名、住所、生年月日、国籍(検討中)
  • BOの定義:議決権の25%超を直接または間接に持つ個人など
  • 届け出先と時期:法務局に、設立時と情報が変わったときに届け出る
  • 閲覧:BO情報は公簿に記載し、行政機関や銀行などの特定事業者が閲覧できる
  • 罰則:届け出ない法人には書面などで催告したうえで罰則を科す

「間接に持つ」とは、別の会社を通じて支配している場合を指す。制度案の図では、ある個人が法人Bの議決権の60%を握り、その法人Bが法人Aの議決権の50%を持っていれば、この個人も法人AのBOとして届け出る対象になると説明している[1]。

有識者会議の資料では、罰則は過料を基本としつつ、隠す目的での虚偽の届け出のような悪質な違反には刑事罰を検討するとしている。期限から3年間届け出がない法人について登記を閉鎖する措置も検討課題に挙がった。届け出はオンラインを基本とし、銀行や士業など法人と接点の多い事業者が法人に代わって提出することも認める方向だ[1]。

なぜ今か ペーパーカンパニーを使う資金洗浄

政府が問題視するのは、特殊詐欺などを背後で操るトクリュウなどが多数のペーパーカンパニーを設け、その法人口座の間で送金を繰り返して資金の流れを追えなくする手口だ。内閣官房の資料は、警察白書を引き、2021年9月から2023年8月にかけてマネーロンダリングを行っていた会社役員の男らが逮捕された事件を紹介している。男らは逮捕当時、約500社のペーパーカンパニーに関わる約4000の法人口座を管理していたという[1]。

表向きの役員が名義だけの人物でも、誰が議決権を握っているかが公的な台帳で分かれば、捜査当局は資金の行き先をたどりやすくなる。新法は、この「名義の陰にいる人」を見える化する仕組みだ。

外国人政策との関係もある。政府が2026年1月にまとめた外国人政策の総合的対応策は、土地を持つ法人について、それを実質的に支配する者の国籍などの把握を強める必要があるとした[1]。7月に閣議決定した「骨太の方針2026」でも、法人の実質的支配者情報の登録などの立法化を早急に進めると明記している[1]。

G7で日本だけ未整備、迫るFATF審査

国際的な背景も大きい。マネーロンダリング対策の国際基準を定める金融活動作業部会(FATF)は、2022年3月にBOに関する勧告を強化し、法人によるBO情報の把握と公的機関への届け出を義務づけるよう各国に求めている。内閣官房によると、G7の中でBO情報の届け出を義務づける制度がないのは日本だけだ[1]。

日本は2021年のFATF第4次審査で、改善の進み具合を重点的に確認される「重点フォローアップ国」とされた。次の第5次審査は2028年夏ごろに予定されている[1]。評価が悪ければ、海外の金融機関が日本の金融機関との取引でリスク管理を強めるなど、経済に影響が及ぶおそれもある。

現在も、株式会社が任意でBOの情報を法務局に申し出る「実質的支配者リスト制度」が2022年1月31日から始まっている[2]。ただ任意の仕組みでは、本当に実態を隠したい法人ほど利用しない。届け出を義務にし、罰則で裏付ける点が今回の新法の大きな違いだ。

中小企業の負担と情報管理が課題

一方で、上場企業を除くほぼすべての法人が対象になるため、中小企業や小さな社団などにも手続きの負担がかかる。有識者会議には日本商工会議所や全国中小企業団体中央会も資料を提出しており[3]、制度の周知や手続きの簡素化が欠かせない。

個人の住所や国籍という機微な情報を国が集める以上、閲覧できる範囲の線引きと、漏えいを防ぐ管理も問われる。そもそも犯罪グループが名義人を立てて虚偽の届け出をすれば、台帳は形だけのものになりかねない。届け出た情報の正確さをどう確かめるのか。罰則の重さとあわせ、国会審議で具体的な議論が求められる。

脚注

  1. 内閣官房 法人等の実質的支配者情報関係制度準備室「資料(法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議)」(2026年9月24日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/beneficial_ownership/dai1/shiryo2.pdf
  2. 法務省「実質的支配者リスト制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html
  3. 内閣官房「法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議」 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/beneficial_ownership/index.html
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